10月28日Vol.130:配信
連載:社員インタビュー
第1話_中澤清隆さん(4課課長)

21年間の風景は、理科の実験室だった

入社して21年ほど、3課で染色に携わった。革づくりの流れのなかで、自分にとってそこは、まるで理科の実験室。サイエンス、数字、技術が入り交じる、失敗と発見の世界だった。

栃木レザーの工程でいえば、原皮をタンニンに漬け込みなめし、乾燥、革漉きを終えたら、染色の作業に入る。革の種類や状態を見極め、目的の発色にするための最初の色づけ。この作業は、職人の技と感覚というよりも、テクニカルなサイエンスに近かった。

何故なら、ドラムという装置と薬品を使って、染色という工程で革がどんな変化を見せてくれるのか、何通りものパターンを実証実験のように試すから。薬品の分量、ドラムを回す時間、革をそのままおく時間、ちょっとパターンをかえるだけで、革は全く違う表情を見せてくれる。

3課の染色は、生地に色を染みこませるだけなので、光は反射しない。お客さんの要望の色に仕上げる4課の染色に比べると、艶もなくマットな感じ。でも、薬品入れて、ドラム回して、ふたあけた瞬間がワクワクする。革がフカフカになっていたり、硬くなっていたり、その変化を見るところに面白さがある。

10年ぐらいは、この作業を1人でやっていた。ドラムを一気に10基ぐらいまわして。生産量が多いときは回りっぱなしで、ドラムが全然、開かない状況になる。

理科の実験を五感で体感してきたようなもの。変化した革に触れて、面白さを体験した染色。その発見と学びに、自分は大きな影響を受けた。(第2話は29日火曜日の配信)

10月29日Vol.131:配信
連載:社員インタビュー
第2話_中澤清隆さん(4課課長)

時間×温度×薬品×油=栃木

染色の仕事に着いた時、専任の先輩はいなかった。とりあえず、「油を溶かして入れれば大丈夫だよ」と、聞いた通りにやってみたけど、うまくいかない。

3課の工程になると、お客様の注文に合わせて進めるため、革の色も、固さも最終商品がそれぞれ違う。だから、ドラムに染料を入れて15分、色止め剤を入れて15分という基本的なマニュアルはすべてに通用するものではなかった。

ドラムをまわす時間、色止めの時間、温度、油、薬品と一つとして同じものはない。

そんな染色が一番、左右されるのは気温。油分が溶けきらず革の表面に付着してしまうこともしばしば。シミの原因をつくらないよう、でっかい樽で油を溶かす時、指を突っ込んでは自分の肌感覚に頼る。温度を高くしたり下げたり調整して撹拌。トライアンドエラーの毎日が続いた。

品質に影響するものを出してしまうと、先輩から怒られるのは自分自身。手間ひまかけて、1課、2課を経てきた革を、染色の失敗で台無しにするわけにはいかない。

だから、「その場の感覚や勘ではなく、ちゃんと考えてやろう」と、経験則から頭の中に記憶している「時間・温度・薬品・油」の関連性を、パソコンに入れはじめた。
(第3話は30日水曜日の配信)

10月30日Vol.132:配信
連載:社員インタビュー
第3話_中澤清隆さん(4課課長)

21年間で積み上げたデータは
なんと2,000ページ


染色する際、上司から手渡される1枚の紙。そこにはドラムを回す時間や薬品の配合などが書かれていた。その処方を実践するなかで、これはもう少し長く回した方がいいとか、時間を変えてみるとうまくいくことが多かった。その新たな情報をメモして、時間が空いた時に事務所のパソコンで入力する。
 
データベースは、アクセスというデータベースソフト。出入りの薬品業者さんが作ってくれたフォーマットに、顧客名、商品名、色など日々の情報を蓄積していった。
 
例えば、革の厚みが2.7ミリで40枚の場合、2.7ミリをクリックし枚数を40と入れるとトータルの革の重さが180キロと表示される。そこに最初の洗いの薬品を3パーセントと入れると、薬品の分量が表示される。染色する時は、それを測ってドラムに投入すればいい。
 
1つの商品で十数種類の色パターンがあり、色によって処方はまったく違う。だから、染料ごとに薬品データを入力していった。薬品が一つ変わると、全ての薬品の項目を変えなくてはならず、随分と手間のかかる作業だった。
 
忙しい時は事務所での入力が間に合わず、USBにデータを入れて週末の休みに家でやることも。そんなこんなで気がつけば、21年間でたまったデータは、2000ページをゆうに超えていた。
 
パソコン作業が得意だったわけでもなく、生産現場の見える化。ただ、自分が困らないようにやった。それだけだった。
(第4話は31日木曜日の配信)

10月31日Vol.133:配信
連載:社員インタビュー
第4話_中澤清隆さん(4課課長)

何故、記録を残したのか

お客様の依頼は多種多様。「いついつ注文した時と同じ色でお願いします」といったものに応えるには、過去の処方情報が必要になる。
 
頭の中に記憶はされているけど、ムラやシミのないきれいな革をつくるには、勘ではなく正確な処方でやるべき。注文を受けた日付を入れておけば、いつでも、過去の情報を引っ張り出すことができる。
 
だから、データーベース化を試みた。
 
練習用の革があるわけじゃないから、半人前だろうと何だろうとすべて製品になるものをやっている。ドラムの中に40枚とか入っている革を、自分のミスでダメにすると、40枚すべてを失うことになる。
 
厳しいな、そう思っていた時、こんなことがあった。ベージュのドラムに、間違って赤の染料を入れしまい真っ赤にしてしまった。色を薄くする薬品を入れてどこまで色が薄くなるか・・・
 
焦りながらも、お湯につけると色が抜けることを経験していたので、まず赤の染料を全部流してお湯に革をつけてドラムを少し回した。できるだけ色を抜いた後に、合成剤を入れて漂白。もう1度水洗いしてお湯を張ってしばらく置いて見てみると、ベージュに戻っていた。
 
データベースが失敗への恐ろしさから守ってくれ、発見の面白さが仕事へのモチベーションをあげてくれた。その両面があったからこそ、続けて来れたのだと思う。
(第5話は、明日11月Ⅰ日の配信です)

11月1日Vol.134:配信
連載:社員インタビュー
第5話_中澤清隆さん(4課課長)

これからのこと

4年前、4課へ異動した。その時、薬品処方のデータベースは3課の清水課長に託した。当時入力した薬品は変わっているだろうから、新しい薬品情報を更新して使ってくれているかな。役に立っているといいけど。

4課に移った当時は、とまどうことが多かった。3課の染色は理科の実験室と言ったけど、ドラムを回しながら、ある法則性を見出すサイエンス。4課の染色は、独特の艶と発色を表現するアート。このまるで違う世界で、自分の経験は何も役に立たないと感じた。

染色の時代、最盛期には1日ドラム2回戦。午後7時にようやく終わって、その日の情報をパソコンに打ち込み、また薬品をはかる。ひとりで戦っていた気になり、「どんなもんでも来い」って思ってた。

それが、4課に移動した当初、自分では何一つ判断できない。一つの法則に基づいて答えを出してきたから、わからないなかで判断をすることがすごくストレスだった。

一つの場所で、ずっと同じことをやり続け、極めるのがいいのか。たくさんの部署を回り管理職としての経験を高めることがいいのか。そんな風に悩んだ時期はあったけど、どちらがいいという答えはなく、与えてもらった道を精一杯進まなくては。

自分はどこまで進んできて、何ができて、何が足りないのか。そうしたことを見つめ直す機会をもらったのかもしれない。今は一人ではなく、10人の4課の仲間を見守り、また、皆に支えてもらっている。

皮から革をつくる流れのなかで、課ごとの距離があるとすれば、自分にできることは、一つの区切りをつけ、これからそれを、どうつなげていくかだと思っている。
(中澤課長の配信は本日で終了です)