5月8日Vol.069:配信
連載:社員インタビュー
第1話_雨宮 孝弘さん(1課)

野球人生にピリオド

自分の人生、膨大な時間を野球に費やした。大学1年まではプロ野球を目指していたが、肩を傷めて手術をし、試合に出られなくなった。長い時間をかけてきた夢は、あっけなく終わった。

就職は製造業の会社に野球でとってもらい、国体で優勝もしたけど、あえなく2年ほどで引退。その後は事務職を10年、あまり休みもなく、品質管理の仕事に追われる毎日だった。

そんな時、一人息子が野球をやることに。一緒に練習をするために、週末に休める仕事に転職を考えた。候補は2社。1社は前職と同じような製品を扱っていたなじみの業界。有力候補だ
ったのに、履歴書の動機の欄でペンが進まない。アピールしたいことが、全然、思い浮かばなかった。

もう1社が栃木レザー。一つを極める職人の道に、野球と通じるものを感じ、あこがれを抱いていた。栃木レザーあての履歴書はすらすらと書けた。募集要項にあった「体力的に厳しい仕事」という文字。余計にやってみたいとワクワク感で一杯になった。

初めて行った工場では、匂いも気にならず、熟練の人の仕事ぶりや動きを見て、すげえ!こんな職人になりたいと心を奪われた。

自分が熱中できること、夢中になれることを見つけられれば、それに向かってエネルギーを注げる。決めた、栃木レザーに。野球で鍛えた体力と精神が、どこまで通用するのか、挑戦してみようと。

5月9日Vol.070:配信
連載:社員インタビュー
第2話_雨宮 孝弘さん(1課)

奥が深いから、面白い

入社6年が経ち、履歴書を書いた時のワクワク感は、いまも変わらない。原皮を扱う1課の主な仕事は、革を洗い漉く。2課、3課、4課へ移るにつれ薄くなる。そういう意味では、重さも扱い方も1課は少し違う。

中指の爪は3枚目。力を入れて革を持つから、手も外側をむいてくる。爪があたってしまうのは、下手な証拠。先輩は指のはらで掴むので爪が痛まない。

そんな職人技に、いつも引き込まれる。慣れている人と不慣れな人の違いは、同じ仕事でも無駄な動きがなく、楽にやりこなすところ。紐一つしばるのも違う。縛り方は教われば誰でもできるけど、それが何百枚となったとき、20分、30分と圧倒的にスピードが違ってくる。

自分が扱う原皮は、排泄物もついていて血まみれ、虫がわいていることも。その状態の革をでっかいタイコに入れて、水洗いして引っ張り出す。水戻しが終わった革は、腕、足、尻尾もついている状態だから一番重たい。それを1枚、1枚広げながら、頭側なのか、お尻側なのか、前足なのか、後ろ足なのかを見つけだす。

最初は、全然、わからなかった。形がわからないと無駄に触り、手順もバラバラになる。汗もかくし、腰も痛い。今は体力は使うが昔よりは楽になった。本当なら辛い作業だけど、辛そうに見せないのも職人技だ。
そんな先輩たちに、少しでも近づきたいとやってきた。新しい仲間が入ると「俺もこんな感じだったなぁ」と、当時を振り返りながら、今との差を感じる日々。それも、面白い。

5月10日Vol.071:配信
連載:社員インタビュー
第3話_雨宮 孝弘さん(1課)

あうんの呼吸

1課の工程は2人ひと組でやる作業が多い。相手の動きを見ながら進めていくのは、まさに阿吽の呼吸。何も言わなくても息を合わせられる。それが面白い。どちらかが、自分勝手に進めるとあわなくなる。そんな時は、声に出して言い合う。相手を常に感じながら、動く。

そんな阿吽の呼吸が生きる職人技の一つが背割り。背割りの台は中央が空洞になっていて、そこに革の背をあわせる。息の合った2人組でリズムを合わせ重い革を半分にし、台をめがけて投げる。空中を舞う革は、空洞の位置に背が一発でのっかる。見事だ。

この作業を先輩方とやると、同じ革?と思うほど楽に的確に投げられる。半人前の頃、何度投げてもずれてしまいうまく乗らない。それを直すのにまた一苦労だった。

自分はまだ経験したことはないが、フレッシングという工程がある。ドロドロの革を漉いた後、箱の中に納めるのだが、これもまた、阿吽の呼吸。漉いたといっても、重くてヌルヌルの状態。機械から出てきたその革を2人で持ちあげ箱に投げ、綺麗に重ねていく。背割りもそうだけど、投げているのにまったくぶれないのは、先輩職人のなせる技だ。

大変な仕事を簡単にやってみせる先輩は、カッコイイ。どの世界でも同じだろうけど、昔の職人は、背中を見て覚えろの世界。でも、教えてもらえないと、無駄に体力を使ってキツいだけ。焦るから余計に身体が疲れる。だから、革の形を学ぶところからはじめる。

上手い人というのは相手本位。常に相手の動きを的確に把握し、それに合わせて自分が動く。
(第4話の配信は14日火曜日)

5月14日Vol.073:配信
連載:社員インタビュー
第4話_雨宮 孝弘さん(1課)

常にきつい方を選ぶ

この仕事をしながら感じることがある。それは、人の内面の弱さが出てしまうこと。きつい仕事だから、楽な方にいきたくなるけど、それは誰かに負担をかけていることになる。

きつい作業も、楽な作業も、みんなが何でもやれるチームをつくりたい。それを目指したいから、自分は常にきつい方をやる。

タイコの中に革と油を入れて40分回して加脂させる工程で、加脂場というのがある。終わった後、タイコの中からから重たい革を引っ張り出すのだが、そこはすごい熱気。真夏はまるでサウナだ。

そのタイコに一歩踏み込み頭を近づける人もいれば、一歩さがる人もいる。きついことから逃げると引っ張り出すのもうまくならない。数やらないと、楽にこなせるようにはならない。

自分は先輩方の段取りや考え方、一番いいやり方を叩き込んでもらった。42を過ぎた男がいうのも何だけど、自分の取り柄は素直なところかと(笑)。

野球をやっていた頃、先生、監督、先輩から言われたアドバイスを「まず、やってみよう」と受け入れた。うまくいかない時は、さらに他の人のアドバイスを求め、自分の考えも取り込み、組み合わせて自分のスタイルをつくり上げていった。

素直さがあれば、必ず成長できるタイミングに出合えるはずだ。

5月15日Vol.074:配信
連載:社員インタビュー
第5話_雨宮 孝弘さん(1課)

自分らしくいさせてくれる場所

自分はせっかちなせいか、1日があっという間に過ぎる。帰宅して風呂に入りながら「あれ、今日の仕事もう終わった?」なんてこともしばしば(笑)。

この仕事は、満足感、達成感がすごく高く、自分の成長も実感できる。先輩方に「何言ってんだ。まだまだだぞ」と、笑われてしまいそうだけど、色んなことに前向きになった。

息子の野球チームでコーチをやっていた頃、ある親御さんに、こう言われた。「最近、雰囲気が変わって、余裕があるように見えますね」と。野球時代のポジションはピッチャーで、一人で考えたり、行動することが多かった。だから、人とワイワイするのは得意ではなかった。

それが、栃木レザーで仕事をするようになって、新しい人が入り、教えたり一緒に作業しているうちに、大切な存在となっていった。そういうことも影響しているのかも知れない。野球で言えば、ピッチャーである自分のことに集中していたのが、チーム全体を見る視点を持てたということだと思う。

話しはそれるけど、自分の野球人生に賭けてくれた両親は、どれだけの時間とお金を費やしてくれたことか・・・幕を閉じたことで、夢を失ったかも知れない。でも、その野球で培った精神力と体力があったからこそ、夢中になれるものと出会えた。

ここは、自分を自分らしくいさせてくれる。そんな毎日に、感謝しなければ。

5月16日Vol.075:配信
連載:社員インタビュー
第6話_雨宮 孝弘さん(1課)

守りたいこと

先のことを考えると、正直、不安はある。今の時代、体力をつかいながらの手作業は、消えてなくなってしまうのではないかと。

でも、これがなくなったら、栃木レザーじゃない。だから、守りたい。

今、新工場の構想が進められているようだけど、根本的なものは変わらないと思う。流れ作業になってしまったら、この仕事の面白さ、価値はなくなってしまうから。

栃木レザーに限らず、作業を標準化し、皆が同じように仕事ができるようになるのがこれからの時代に求められていること。でも、それじゃ、つまらない。身体がきついこともあるけど、自分らしく生きている、と強く実感できる。

この独特な世界を守るために自分ができることは、一緒に作業をする相手を楽にしてあげること。先輩からそうしてもらってきたことを、今度は若い人に返していきたい。みんなが何でもやれるチームをつくりたいから。

60歳を超えた頃、若い人と同じくらいの仕事を楽な顔つきでできたらいいな。できないことを見せたくないのは、男のプライドでもある。「あの先輩、すげえ!」と言われる生き方をしたい。自分が先輩を見てそう思ったように。そんな面白い仕事を、ずっと残したい。

(雨宮さんのインタビューは終了です)