
12月19日Vol.027:配信
連載:社員インタビュー
(毎週火・水・木配信)
第1話_清水 栄文さん(1課 課長)

人生のターニングポイント
それは、21の時。結婚して、子どもを授かった。でも、勤めていたゴルフ場の給料では、とてもやっていけない。そんな時、元仕事場の先輩から紹介されたのが栃木レザー。先代はそのゴルフ場のメンバーで、なんとキャディだった嫁のこともよく知っていた。面談で、「あの人が奥さんか」と盛り上がり、そんな縁もあって、つながった。
工場を見て、度肝を抜かれ、
革も知らず、革好きでもなく、
これがやりたい、というのもなかったけど、
自分にとって仕事は、生活のため。家族を守るためのもの。だから、やりながら、この仕事と向きあっていこうと。
走りながら考えるのが、自分のやり方だから。
最初に取り組んだのは流し。水分がなくなった状態で輸送されてくる海外の原皮に、水分をもたせる。1日かけて水戻しをし、翌日は、1頭の革を半分に切る背割り。これを半年くらい続けた。
この工程は体にこたえる。朝、嫁さんに手伝ってもらわないと起き上がることすらできなかった。腰も痛いし、手も動かない。でも、子どもが生まれ、泣き言を言っている場合じゃなかった。「ちくしょう」と心の中で叫びながら、約3ヶ月を過ごした。
体が慣れてきて、キツイ作業もこなせるようになってくると、細かい問題が見えはじめた。例えば、他の工程に興味を持っても、異動がない。1つの作業を特定の人がずっとやり続けるのが、ここのやり方だった。その人にしかわからない状況をつくってしまうのは、会社にとっても良くない。
「現場の流れを良くするためにも、いろんな人が色んな仕事ができたほうがいいのでは」
上司に掛け合うも、耳を傾けてくれるような人ではなかった。
納得のいかない毎日が、過ぎていく。

12月20日Vol.028:配信
連載:社員インタビュー
(毎週火・水・木配信)
第2話_清水 栄文さん(1課 課長)

革のことを知りたい
思ったことを口に出してしまう。だから、上司と意見が衝突してしまう。先代は、そんな自分を主任にしてくれた。それをきっかけに、技術的なことや薬品のこと、山ほどある知りたいことを、追求しはじめた。
それは、薬品を間違えてしまった経験からだった。誰に聞けばいいのかもわからず、困り果てて、当時、主任をしていた三柴さんのところへ相談に行った。
「薬品の順番、間違えてしまったんだけど、どうしたらいい?」
「うまくいかなくて相談に来た人、初めてだよ」
薬品の処方を間違えてしまうのは現場でよくある話し。そんな時、現場の人は、独自の発想で、対処してしまう。誰も、正しい情報を確かめようとはしない。感覚も大事だけれど、本来の処方とズレてしまう可能性だってある。そもそも、処方の意味も、効能も、現場は何も知らない。知る必要がなかった。
だから、いい革ができない。
もっときれいな革をつくるために、まず自分が薬品のことを知り、それを現場に浸透させていかなければ。
しかし、革のことを追求すればするほど、上司とうまくいかない。対立は、激しくなる一方だった。

12月21日Vol.029:配信
連載:社員インタビュー
(毎週火・水・木配信)
第3話_清水 栄文さん(1課 課長)

「何が不満なんだ!」
毎日の上司との衝突が時間の無駄に思えた。上司に「辞める」と啖呵を切ったら先代に呼び出された時のことだった。
「自分は会社を思って言っているつもりですが、上司は受け入れてくれませんでした」
「じゃ清水君、課長をやればいいよ」
「自分には考えがあります。上司の言うことは聞かないですよ」
「好きにやってみろ」
先代は、入社して3年半、25歳の生意気な自分を課長に押し上げてくれた。そこまでしてもらって逃げるわけにはいかない。一通り現場を回っていたから、作業にしても、革の知識にしても、自信はあった。
長い年月、経験を積んだとしても、一歩先を考えなければ何も進まない。数年の経験でも必死になって頑張れば、良くすることはできるはず。
言いたいことを言わせてもらったからには、なにが何でもやり抜かなければ。もう、ここまできたら、大変なこと、全部、引き受けてやってやる。
どうしたら、きれいな革がつくれるのか。
きれいに仕上がらない原因は、どこにあるのか。
ひたすら、それを追求する、革との格闘がはじまった。

12月26日Vol.031:配信
連載:社員インタビュー
(毎週火・水・木配信)
第4話_清水 栄文さん(1課 課長)

仕上げ工程での経験
素材、工場、そして人。これらすべてが満足な状態になって、いいものづくりができる。古い設備だから・・・人が少なくて忙しいから・・・と、できない理由をあげればキリがない。現状のなかで、どうしたら少しでも綺麗な革づくりができるのか。それを自分なりに考えた。
工場内で他の部署を経験する機会が無かったので、まずは仕上げ工程に行き、勉強させてもらった。1課の作業工程で作ってしまうシミが、後行程にどんな影響を及ぼしてしまうのか。それが知りたかった。
1課の作業では革の名前をヌメ、ニッピ、地生、底の4種類で分ける。その後仕上げの工程で商品名がつけられるのだが、1課はその商品名を知らない。知る必要がなかった。
商品名が分からないから、栃木レザーで働いているのに、「栃木レザー使用の財布」と書いてある商品を見ても、本当に自分たちが手がけた革なのかどうなのか、見当がつかない。それが、すごく嫌だった。
こうして、仕上げ工程の作業を手伝いながら、自分の眼で革や商品名を見て勉強したことは大きく、1課の課題をどうするべきか少しずつ見えていった。

12月27日Vol.032:配信
連載:社員インタビュー
(毎週火・水・木配信)
第5話_清水 栄文さん(1課 課長)

原皮の仕入れで先代に掛け合う
何故、きれいな革づくりにこだわったのか。そもそも自分が入社したのは、栃木レザーに社名を変更した直後。毎月、潰れるんじゃないかと、従業員は不安な気持で仕事に向き合っていた。
それなのに、誰も会社を盛り上げようとしない。若かった自分は、先が明るくないと困る。どうしたら、ボーナスも出るようになるのか。自分にできることは、いいものをつくること。それしかなかった。
当時、先代はトロントの革とテキサスの革を仕入れていた。テキサスの革は、1枚に1つの焼き印(ブランド)が、多いときは3つも押されていた。それでは良い革がとれない。トロントは焼き印がなく、お腹が少し薄いという欠点はあるものの、傷もなく綺麗で大きい。何故、これをたくさん仕入れてくれないのか、先代に掛け合った。
先代は、原皮のことに触れられるのを嫌った。それでも、三柴さんと一緒に何度も掛け合ううちに、全てをトロントの革に変えてくれた。そうやって三柴さんをはじめ、数名の仲間と会社を盛り上げ、品質を向上させ、ついにボーナスが出るまでになった。
結果に対して、経営が苦しくても先代はボーナスで評価してくれた。今の遅澤社長もそう。「会社だから、ボーナスが出るのは当たり前」ではない。現場がしっかり革づくりをしないと、経営にダイレクトに響くことを、意識しなければけない。
栃木レザーが生き残っていくためにも、一人ひとりが良い革をつくることが大切である。
(第6話は来週12月28日木曜・配信)

12月28日Vol.033:配信
連載:社員インタビュー
(毎週火・水・木配信)
第6話_清水 栄文さん(1課 課長)

一歩先の景色を、見よう
自分も40になった。人を育てなければならない年齢。若手も革に興味は持っているけど、見ている世界が狭いように感じる。
20年近くやってきて、水場、鞣し、加脂までの工程が、自分には向いている。体力的にきついこの仕事は、身体が作業に慣れるだけで満足してしまう。でも、そこで満足せず、次の革づくりの一歩を踏み出せば、先の景色が見える。
革づくりの深さ、面白さをもっと、今の人たちに知ってもらいたい。品質がいいかどうかは、知識と経験がないと判断はできないから。ただ、作業マンになるのではなく、革を見て、五感で感じ、いいものをつくるんだ、という気概で。
栃木レザーの品質をつくっているのは、おれたちなんだと。
そんな自分にも、昔から思っていることが一つある。それは、すべての革を綺麗なキナリ色の革をつくりたい。どんなもんだ!と胸張って!
難しいことだけど、その想いを忘れず、求め続ける。