今回は1課の安生貴博さん。3課の目黒さんと中学の時の同級生で、4年前に入社。現在は、石灰漬けによる脱毛を担当。もの静かなイメージの安生さんだが、前職で鍛えられた営業職の話しに触れると、意志の強さが垣間見れる。

9月22日Vol.215
社員インタビュー
第1話_安生貴博さん(第1課)

営業の極意を学ぶ

栃木レザーに入る前、新聞の飛び込み営業の仕事に明け暮れていました。多い時で1日の訪問数は150軒ほど。10年以上携わった製造業をやめて、違う世界が見てみたいと読売新聞の営業所に入ったんです。
色々あってやむなく退職することになるのですが、自分にとっては訪問営業の極意を学んだ1年でした。

新聞購読の減少が止まらないこの時代に、新規契約の獲得は、正直、厳しいものがありました。一応、営業マニュアルがあってそれに沿ってやるのですが、相手は人ですから。マニュアル通りになんて絶対いかないんです。

どれだけお客さんと対話をしたか、その経験が活きれば、アドリブも効く。洗剤とかトイレットペーパーの景品も単なるおまけ。最終的に大事なのは、人間力というか、人柄なんですよね。

人の気持を動かすには・・・

1日100軒以上訪問するために、よく大規模な集合住宅を狙いました。端から端まで回るんです。「必要ない」「うちはお断り」なんて言葉を浴びせられたり、怒られたり。さすがにメンタルをやられます。
「どうしたら玄関のドアをあけてもらい、対話まで持っていけるのか」。必死であの手この手を考えて、ある時、自分にできる技を見つけたのです。

9月23日Vol.216
社員インタビュー
第2話_安生貴博さん(第1課)

新聞を売らずに、新聞を売る!

自分の趣味は車。スポーツカー好き。訪問販売で苦戦するなか、好きなことなら話しのきっかけになるのではと、駐車場を見て、スポーツカーがとまっている家を狙うようにしたんです。

どうせ、「新聞は取らないよ」って言われるのがせきのやま。「この辺を回っていますが、あまり人に会えなくて」と言いながら、車の話しを切り出す。「僕もスポーツカー好きなんですけど・・・」なんて言うと、そこから車談義がはじまり、「以前はこういう車に乗ってたんだよ」と、写真まで見せてくれるんです。

盛り上がるとあっという間に1時間が過ぎ、最後に新聞の話しをすると、たいてい「いいよ」って契約につながります。

車の他には、ゴルフ。玄関に置いてあるゴルフバックを見かけたら、「ゴルフをやられるんですか?」と切り出して、スコアを聞いたり。自分がやったのは、「新聞とってください」とは言わずに、趣味を切り口に雑談からはいる手法でした。

これって、雑談力がないとできないんです。
景品でも営業マニュアルでもなく、人柄が契約につながるとという経験は、面白かった。もう、できませんけど(笑)。

ちなみに、車はインテグラのType-Rに乗っていました。特別な速さを持った赤のエンブレム。でも、盗まれてしまって。海外で見つかったけど・・・レアな車だから狙われてしまったんですね。

今は、ミニ四駆にはまっています。モーターが付いていて電池で走るんですよ。専用のコースがあって、そこで走らせるんです。

速くなれば速くなるほど、飛んでいくのでコースアウトしやすくなってしまう。飛ばないように、車体の下にスポンジ貼ったり。自然なブレーキの役割になるんです。うまく走らせるために、どうするかを考える。そのセッティングが最高に面白い!

9月24日Vol.217
社員インタビュー
第3話_安生貴博さん(第1課)

皮を「見守る」

新聞の訪問セールスの仕事を辞め、転職を考えた時、中学の同級生が勤めている会社で、「募集しているよ」と教えてもらったのです。それが栃木レザーで、友人とは3課の目黒くん。新型コロナウイルスが猛威をふるっていた頃でした。

製造業に携わっていましたから、迷うことなく見学に行ったのです。ちょうど、一番きついと言われている作業が終わった後で、さらに機械のトラブルか何かで、大部分の作業が止まっていたタイミングで。そんなこともあり、大変な現場だとわからず「やってみよう」と、決めたんです(大きな間違い!笑)。

機械がつくったものを確認したり、触ったり、点検したりと、毎日が同じ繰り返しだった以前の製造業とは真逆。特殊な世界で、体を動かして仕事をするのは気持がいいし、退屈することがないんです。

皮から革へ生まれ変わる

今、石灰漬けによる脱毛の作業に携わっています。石灰はアルカリ性だから、ピット槽はヌルヌル。ピット層の狭い間を行き来するのを見て、「うわっ、ここ歩くのかー!」と、最初はほんとに恐かった。

1つ目の槽に皮を漬けて、1日たったら次の槽に送る。5日後に5つ目の槽から取り出すんです。2槽目から、処方した薬品によって毛が抜けはじめます。1日に2回ほど取り出してはまた戻す、これを繰り返すのですが、皮のねじれをなおすため。ねじれたところは毛が抜けずに、残りますから。

薬品につかった皮は、毛がドロドロに溶けて綺麗に脱毛されます。寒い時は水温が低いのでよく抜けますが、夏場など水温が高くなると抜けにくくなる。季節によって違います。

抜けた毛は槽の底に溜まるので、数ヶ月に一度の大掃除。空っぽになった槽を覗いてみると、結構、深い。3メートルくらいあるんじゃないかな。

自分は、皮を「見守る」のが仕事です。1枚1枚違った皮の状態を、丁寧に見ています。簡単そうに見えるけど、簡単ではない。皮が革に変化していく、生まれ変わる瞬間ですから。それを見守っているのです。

9月25日Vol.218
社員インタビュー
第4話_安生貴博さん(第1課)

対岸にあるタイパ・コスパ世代

近い将来、革の需要はどう変化していくのか、気になります。革って嗜好品だから、景気に左右されやすいですよね。やっぱり、お金に余裕がないと革製品は買えません。

特に20代とか、若い世代の革への興味は薄いように感じます。彼らはコスパ、タイパを求めますから、その傾向からすると、革の世界は選択肢から外れちゃうのかな、って。

だからこそ、その世代に向けて、良さをわかってもらえるように働きかける必要があると思うんです。興味を持ってもらうためには、どんな風に良さを語りかければいいのか。

一方で、栃木レザーがやっていることって、今の時流に乗っています。やり方は伝統的であっても、化学薬品を使うクロム鞣しに比べれば、植物性の材料を使用しているタンニン鞣しは、環境にも人にも優しい。

手間ひまをかけた分、使えば使うほど色や風合いが変化する。その経年変化を楽しむのが革の醍醐味。タイパ、コスパを重視する世代とは、大きな価値観のズレはあるかもしれないど、長く使えて、汚したり、傷つけたりしてかっこよく育てる。その良さを、伝えたいですね。

9月26日Vol.219
社員インタビュー
第5話_安生貴博さん(第1課)

皮から革って、何?

ここに来るまでは、革のこと何も知りませんでした。どうやってつくっているのか、考えたこともありませんでした。実際、やってみると、脱毛の工程だけでも学びが多い。だから、疑問もたくさん湧いてきます。

最初の不思議は、「皮から革にかわる瞬間って、どんな変化が起きているの?」

ネットで検索すると、うちの会社のホームページは作業的な説明はあるのですが、知りたいことにはあまり触れていなくて、他の会社のサイトがヒットするんです。

入社後に革の教育を受けるのかなと思ったんですけど、すぐに現場に配属されて意味もわからないまま、作業がはじまりました。会社が教えるのではなく、自分で経験しながら、自分で探っていく、ということなのでしょう。

でも、日本で数社と言われているものづくりを、実感することがあまりないのです。自分には脱毛という狭い範囲しか見えていないからでしょうか。

他の課に手伝いに行った時、ものづくりの全体像が少し見えます。それと同時に、自分が手を施した皮がこんな風に生まれ変わるんだと知り、愕然としたことがありました。あんなに汗かいて、苦労して引っ張った厚みとハリが、こんなに薄くなるんだ、と。

みな、自分の仕事に誇りを持って取り組んでいると思います。それを、個々だけではなく、全員が全体を共有すれば、もっとこのものづくりの価値や意味を理解できるのでは・・・そんな風に思います。